税務調査で「書類を預けてほしい」と言われたときの対応

税務調査の現場では、調査官から「この帳簿や契約書をお預かりしたいのですが」と要請を受けることがあります。突然そう言われると「拒否すると不利になるのでは」と不安になる納税者も少なくありません。しかし、ここで重要なのは書類を預けることに法律上の義務はないという点です。


 

法律が定める義務は提示・提出まで

国税通則法第74条の2は、納税者に帳簿書類の提示または提出義務を定めています。つまり調査の場で帳簿や証拠書類を見せる、またはコピーや写しを渡すことは法的義務として求められます。一方で原本を税務署に持ち帰らせる、いわゆる留置きについては法律に規定がありません。あくまで任意の協力に過ぎず、納税者が拒否しても法令違反にはならないのです。

 

国税庁の指針も任意の協力と明記

国税庁の調査事務運営指針でも、留置きは納税者の同意が前提であることが明記されています。また、どうしても留置きを行う場合は留置簿に必ず記載し、留置票を納税者に交付することが調査官側の義務とされています。したがって安易に「預けてください」と言われても、納税者には明確な権利があり、無条件に応じる必要はありません。

 

実務での対応ポイント

実際の現場では、調査官が「原本を持ち帰って精査したい」と申し出ることがあります。この場合の対応としては以下の点が大切です。

まずはコピー提出で対応すること。原本を持ち出させるのではなく、必要部分をコピーして渡すのが安全です。

どうしても原本が必要な場合は、調査官(税務署側)に原本を持参してもらい確認する方法を提案すること。原本を手元から離さずに済むため、万一の紛失リスクを防げます。

留置き(とめおき)を受け入れる場合は留置票(とめおきひょう)を必ず受領すること。何を誰にいつ渡したかの証拠が残り、返却時のトラブルを避けられます。


 

まとめ

税務調査は緊張感を伴う場面ですが、調査官の要請をすべて義務と思い込む必要はありません。法律が定める範囲を理解しておけば、冷静に対応できます。書類を見せることやコピーを提出することは義務ですが、原本を預けるかどうかは納税者の判断です。

不安を感じたら「税理士に相談してから回答します」と伝えれば十分です。調査官も通達を理解しているため、強引に原本を持ち帰ることはできません。

 

税務調査は納税者にとって大きなストレスになる出来事です。しかし、正しい知識を持って臨めば過度に恐れる必要はありません。私たち税理士は納税者の権利を守りつつ適正な調査の実現をサポートする立場にあります。ぜひ「預ける義務はない」という事実を知り、落ち着いた対応を心がけていただきたいと思います。

 

 

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