税務調査で納得いかない場合の「再調査の請求」とは?やる意味や審査請求との違いを解説


税務調査が実施され、調査官から指摘を受けた際、その内容にどうしても納得がいかないという場面に直面することがあります。税務調査に対して不安や疑問を感じるのは、経営者や経理担当者として当然のことです。
税務調査は、調査官の個人的な好みや感性で税額を決定するものではありません。国税通則法をはじめとする税法と、会社が保管している請求書、領収書、契約書、通帳などの客観的な証拠に基づいて、事実関係と法律の適用を確認する手続きです。したがって、税務署から何らかの指摘を受けたからといって、直ちに納税者側の主張が間違っていると確定するわけではありません。
調査官から「申告内容に間違いがあるため、申告を直してください」と求められた場合でも、納得がいかなければその場ですぐに同意する必要はありません。法律には、税務署側の判断に対して疑問がある場合に、客観的な手続きを通じて見直しを求める仕組みが用意されています。
その手続きの一つが「再調査の請求」です。しかし、経営者の方からは「処分を出した税務署にやり直しを求めても意味がないのではないか?」「審査請求と比べてマイナーな制度なのでは?」といった疑問の声が多く聞かれます。
この記事では、調査官の指摘に納得がいかない場合に修正申告を拒否して届く「更正処分」の仕組みと、不服申立て手続きである「再調査の請求」の基礎知識、そして「実際にやる意味はあるのか」という現実的な疑問について分かりやすく解説します。
1. 調査官の指摘に納得がいかない場合の「修正申告」と「更正処分」の違い
税務調査の終盤になると、調査官から「ここが経理処理として認められないため、自主的に申告を直してください」と依頼されることがよくあります。この申告を直し、不足している税金を納める手続きを「修正申告」といいます。
修正申告とは、すでに提出した申告書の税額が少なかった場合などに、納税者が自らの意思で申告内容を訂正する手続きです。ここで重要なのは、修正申告はあくまで「納税者が納得して自主的に行う手続き」であるという点です。一度修正申告書を提出してしまうと、後から「やはり納得がいかなかった」と主張して、その修正内容を取り消すことは原則として非常に困難になります。
もし、調査官が示した根拠や事実関係の捉え方に納得がいかない場合は、修正申告に応じないという選択肢があります。修正申告に応じない場合、税務署は調査結果に基づいて職権で税額を決定する処分を行います。これを「更正処分」といいます。
| 区分 | 手続きの性質 | 不服申立ての可否 |
|---|---|---|
| 修正申告 | 納税者が自らの意思で自主的に申告内容を修正・提出する手続き。 | 原則不可 (一度提出すると取り消せません) |
| 更正処分 | 修正に応じない場合、税務署が職権で税額を変更・決定する行政処分。 | 可能 (公的な見直し手続きへ進めます) |
「更正」とは、提出された申告書の税額などを、税務署が職権で変更する行政処分です。税務署から更正通知書という公的な書類が送られてくることで、法律上の処分が確定します。税務署と話し合いを続けても折り合いがつかない場合、あえて修正申告を行わず、この更正処分を受けることによって、公的な見直し手続きへ進む権利が得られます。
2. 不服申立て手続きにおける「再調査の請求」の位置づけと審査請求との違い
更正処分を受けたものの、税務署の判断に納得できない場合、納税者にはその処分に対して不服を申し立てる権利が認められています。これが「不服申立て」という制度です。不服申立ての手続きには、大きく分けて「再調査の請求」と「審査請求」の2種類があります。
かつては「異議申立て」という名称で呼ばれていましたが、平成26年の国税通則法改正により現在の「再調査の請求」に名称が変更されました。
⚖️ 2つの不服申立て手続きの違い
① 再調査の請求(旧:異議申立て)
更正処分を行った処分庁(税務署長など)に対して、直接「もう一度調べて見直してください」と求める手続きです。
② 審査請求
税務署ではなく、国税庁の特別の機関である「国税不服審判所」に対して処分の取り消しを求める手続きです。国税不服審判所は、税務署とは独立した第三者的な立場で判断を行います。
平成26年の法改正前は、まず税務署への異議申立て(現在の再調査の請求)を行わなければ国税不服審判所へ進めないルール(異議申立前置主義)でした。しかし制度改正により、現在では再調査の請求をスキップして、直接国税不服審判所に「審査請求」を行うことが可能になりました。
そのため、「処分を出した税務署に直接申し立てるより、最初から第三者機関である国税不服審判所に審査請求をしたほうが公平に判断してもらえる」と考えるケースが増え、実務上、再調査の請求はややマイナーな選択肢として扱われるようになっています。
3. 国税通則法における再調査の請求の法的根拠と提出期限
不服申立ての第一歩となる「再調査の請求」については、国税通則法という法律で具体的なルールが定められています。
📜 国税通則法第75条第1項(抜粋)
「国税に関する法律に基づく処分に不服がある者は、第77条第1項の規定により、その処分をした税務署長に対して再調査の請求をすることができる。」
簡単に言うと、この条文は、税務署から更正処分などの処分を受けた納税者が、その内容に納得がいかない場合に、処分を行った税務署長に対して「処分を再確認してください」と請求できる権利を保障している規定です。
税務調査対応において重要なのは、税務署の言われるままに従うことだけが選択肢ではないということです。法律によって、納税者の権利を守るための手続きが制度として用意されています。
⏰ 再調査の請求には厳格な期限があります!
国税通則法第77条の規定により、再調査の請求は原則として「処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内」に書面で提出しなければなりません。この期間を過ぎてしまうと、どれだけ正しい主張であっても手続きを行えなくなってしまうため、期限の管理には細心の注意が必要です。
4. 裁判例に見る税務署の判断と客観的な証拠の重要性
税務署が行った更正処分が、その後の不服申立てや裁判で取り消されるかどうかは、「客観的な証拠」がどれだけ揃っているかによって大きく左右されます。
実際の裁判(最高裁判所平成16年7月8日第一小法廷判決、事件番号:平成15年(行ヒ)第174号)では、会社と役員との間の取引や資金のやり取りが、税務上どのように評価されるかが争われました。
この裁判において最高裁判所は、単に書類のタイトルや形式的な記載だけを見るのではなく、実際の資金の動き、合意に至る経緯、契約が履行されている実態などの「具体的な事実関係」を総合的に考慮して判断を示しました。
この裁判例から分かるのは、税務署が更正処分を行う際にも、また納税者がそれに対して再調査の請求や審査請求を行う際にも、決め手となるのは双方の主張を裏付ける「客観的な事実と証拠」であるという点です。
📁 納税者の主張を支える客観的証拠の例
- 取引先からの請求書や領収書の原本
- どのような業務のために支出したかを示す社内メールや打合せメモ
- 実際に作成した成果物や納品物
- 会社名義の通帳からの引き落とし履歴・送金記録
単に「仕事で使った」と口頭で説明するだけでは不十分であり、これら一連の資料を時系列で整理して提示することによって、初めて納税者側の主張が客観的な証拠として認められることになります。
5. 「再調査の請求」をやる意味はあるのか?メリットと現実的な注意点
「直接国税不服審判所に審査請求できるなら、税務署に対する再調査の請求はやる意味がないのではないか?」という疑問は、多くの経営者や経理担当者の方が抱く点です。
実際問題として、国税庁が公表している統計を見ても、再調査の請求によって税務署の処分が完全に取り消される割合(認容率)は数パーセント程度にとどまります。一度下した処分を税務署自身が覆すことは、構造的にも容易ではありません。
しかし、再調査の請求を行うことには、戦略上の「明確なやる意味」が存在します。
🎯 再調査の請求を行う3つの戦略的メリット
① 税務署側の「主張のロジックや証拠」を事前に把握できる
再調査の請求を行うことで、税務署がどの事実を問題視し、どの法律解釈に基づいて処分を行ったのかが書面を通じて明確になります。相手の手の内を知ることで、次の審査請求に向けた対策が立てやすくなります。
② 費用や時間を抑えて迅速に争点を整理できる
国税不服審判所への審査請求や裁判所への訴訟は、準備に高度な専門知識と多大な時間・費用を要します。まずは再調査の請求を利用することで、比較的簡易な手続きで事実誤認や主張のズレを整理できます。
③ 税務署の担当部署以外の視点で再確認させられる
調査を行った現場の調査官ではなく、税務署内の不服申立て担当部門が改めて帳簿や証拠資料を確認するため、明白な事実誤認や勘違いがあった場合には、一部取り消しなどの見直しが行われる可能性もあります。
また、再調査の請求で納得のいく結果が得られなかった場合でも、その決定通知を受けた日の翌日から1か月以内であれば、改めて国税不服審判所に「審査請求」を行うことができます。
一方で注意点もあります。再調査の請求を行っても発生した税金の納付義務が自動的にストップするわけではなく、資料収集や理由書作成の負担が発生します。「単に感情的に納得いかないから」という理由だけで行うのではなく、「提出できる客観的な証拠があり、相手のロジックの隙を突けるか」を冷静に見極めた上で、審査請求への前哨戦として戦略的に活用する意義があります。
6. 税務調査で納得がいかない場合に会社が取るべき具体的な対応手順
調査官からの指摘に納得がいかず、更正処分や再調査の請求、審査請求を検討する場合、会社としては次のような手順で冷静に対応を進めることが推奨されます。
- 指摘内容と法的根拠を正確に記録する
その場で不用意な回答をせず、調査官が「なぜ認められないと判断したのか」「どの事実を問題視しているのか」「どの法律の条文に基づいているのか」を確認し、メモを残すか文章での説明を求めます。 - 関係資料を整理・再点検する
請求書、領収書、総勘定元帳、通帳明細、業務連絡メール、見積書、出張記録などを時系列で整理し、税務署側の主張と食い違っている部分を洗い出します。 - 修正申告に応じるか更正処分を待つか判断する
一度修正申告書を出してしまうと不服申立ての手続きは取れなくなります。自主的に直すのか、更正処分を受けて不服申立てに進むのかを慎重に検討します。 - 専門家(税理士)への相談・セカンドオピニオンを検討する
自社だけで法的根拠や証拠の強弱を判断するのが難しい場合は、不服申立てや税務調査対応に詳しい税理士に相談し、客観的な見解を求めます。
7. まとめ
税務調査における指摘に対して「どうしても納得がいかない」と感じた場合でも、感情的になって拒否するのではなく、法律と客観的な証拠に基づいて冷静に対処することが大切です。
今回の重要ポイントを整理します。
- 調査官の指摘に納得がいかない場合は、無理に「修正申告」に応じる必要はありません。
- 修正申告に応じない場合、税務署から「更正処分」が出され、これによって公的な不服申立て手続きへ進むことができます。
- 処分に不服がある場合、処分を行った税務署長に対して「再調査の請求」を行う権利が国税通則法で認められています。
- 審査請求に直接進める現在、再調査の請求はマイナーに見えますが、相手の主張や証拠を把握し、争点を整理するための戦略的手段として「やる意味」があります。
- 手続きにおいて最も重要なのは、請求書、契約書、通帳、メールなどの客観的な証拠に基づいて事実関係を証明することです。
- 再調査の請求には期限(原則として処分を知った日の翌日から3か月以内)があるため、早めの準備が必要です。
- その場の推測で回答せず、事実関係を整理した上で、専門家への相談も含めて最適な方針を検討することが大切です。
税務調査は勝敗を競うものではなく、適正な税額を正しく確認するための手続きです。正当な権利を守るためにも、まずは自社の手元にある証拠と事実を丁寧に確認することから始めてください。
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